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でも、きっと隣の彼にとっては違うのだろう。そこまで詳しく語るということは、他の船以上にこの駆逐艦に思い入れがあるということなのかもしれない。
「詳しいんだね」
彼が語った話のほとんどは、そこのパネルには書いていない内容だった。
「我らにとっては常識よ」
ふん、と鼻を鳴らしてそう返してきたが、不思議とイヤミには感じなかった。なんとなく、彼に私を見下す意図がないことを悟ったからかもしれない。
「この船は、最後どうなったの?そんなに活躍した船ならさ」
「沈んだ。どれほど勇敢な船であろうと、いずれ終わりは来るものよ。むしろ、戦果を挙げた船であればあるほど、華々しく散るがさだめ。それを、かつて我々は誇りと思っていた……思おうとしていた」
少年は目を細め、船の末路を語る。
「最後は米国の重巡洋艦、ポートランドに撃沈された。しかし、ボロボロになってもこの船は、最後まで敵陣を縦横無尽に駆け回り、勇猛果敢に戦うことで多くの仲間を守ったのだ。……わかっているとも、それはすなわち、それだけ多くの船を沈め、敵を殺したということだろうということはな。だが忘れないで欲しいのは、誰もが人殺しになりたくて戦争をしたわけではないということだ。ただ、隣にいる愛する者を守りたかった、それだけなのだ。……戦犯として、裁かれることになった者達でさえな」
「……戦争は、悪いことじゃなかったってこと?」
「違う。本当の意味では、正義も悪もなかったということ。そして戦争を二度と起こすべきではないと願うなら、ただ戦争をしてはいけないと叫ぶだけでは何の意味もないということだ。多くの国は、組織は、“戦争をする以外に立ち行かない”状況に追い込まれて開戦の口火を切る。ならば、戦争をするしかない状況そのものを作らないよう、今を生きる貴様らは努力をし続けなければならぬ。その義務を、過去の者達に命がけで守られた貴様らは生まれながらにして負っていると私は考える」
ゆえに、と彼は私の額をつん、と人差し指でつっついて言ったのだ。
「それが、貴様らが子供の頃から、戦争と過去の物語を学ばされる理由であるのではないか」
どうやら、彼が伝えたかった結論はそこにあったらしい。つっつかれた額が、妙に熱い。彼の話の全てが理解できたわけではなかったが、それでもさっきまでとは目に見える景色が変わったような気がするのは事実である。
色あせた模型が、じっと訴えているような気がする。
自分達をただの、人殺しの武器だと思って見ないでほしい、と。乗った人間にも家族がいて友人がいて、守りたいものがあったことを覚えておいてほしいと。そして、彼等の命の上に、自分達があることを忘れてくれるな、と。
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