二十三歳の夏海(2)

7/12
前へ
/192ページ
次へ
転がるスマートフォンとぺっちゃんこになった財布がなんだか哀れに見えた。まるで今のわたしのようだ。 「沖縄に帰ろうかな……」 わたしはポツリと呟き財布の中身を確認した。綺麗に整理された財布の中に千円札が一枚入っているだけだ。何度確認してもお札は一枚しかない。 銀行の残高は恐らく数万円だと思う。そのお金を全部使って沖縄に帰ろう。 両親には女優として成功するまで帰らないと言ってしまったがこの際仕方がない。何もかもが嫌になってしまった。 東京(ここ)にいる意味が分からなくなってしまった。だって、辛いことばかりなのだから。 わたしは、よろよろと立ち上がった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加