俺はお人好し

2/2
前へ
/9ページ
次へ
(しかし、この受付の小さなお姉さん、猫耳で長い尻尾がフリフリしてるけど、コスプレヤーなのか?) 「さあ、逮捕される覚悟があるならさわってごらん」 ドヤ顔の小さな猫耳お姉さん。 「ビリッ!とかしませんか?」 「しないしない」 「じゃあ、はい」 ピトッ 勤は石版に手をついた。 「お兄さん、馬鹿なの? 謝って帰れば逮捕されないのに。まあ、私は報奨金で1万円もうかるけどね。私を恨まないでね。あ、言っとくけど、ギルド職員に逆恨みパンチとかしたら死刑だから」 「あの、それで結果は?」 「仕方ないわ。そこまで言うなら国のメインサーバーにアクセスするから。ここをタッチして、ここを指定して、ここをこうだったわね。滅多に使わないから。はい、繋がった。えっと……職業、バイトリーダー。ほら、お兄さんはバイトリーダー……えええのえー!!」 「これで俺がバイトリーダーって分かるって、凄いシステムですね」 「あわ、あわわわわ。す、す、すみませんでした!!」 受付のほうから飛び出して土下座する小さな猫耳お姉さん。尻尾はブルブルしている。 「あの」 「ん? どうした、ネマル。何か粗相でもしたのか? それにしたって土下座はねえだろ」 「バカ野郎! クソ野郎! おっさんも土下座して謝れ! 殺されるぞ! コノヤロー! 化け物なんて連れてきやがって! あっ! 化け物なんて言って、す、す、すみませんです!!」 ゴン ゴン ゴン 何度も床に頭を打ち付ける小さな猫耳お姉さん。 「お姉さん、頭が割れるから止めて」 「は、はい! 御命令ですね!」 床にゴンゴンを止めた小さな猫耳お姉さん。 「おい、ネマル。これはどんな状況なんだ?」 「おっさん! そこの石版を見てみろ!」 「あ? 職業はなんだったん……はあ!? す、す、すみませんでした!」 ゴン ゴン ゴン 勤の前に土下座して床に頭を打ち付けるゴツいおっさん。 何だよ、これ。 「マカロンさん、ゴンゴンはやめてください」 「俺の名前はマクロン……いえ! はい! マカロンやめます!」 「えっと……」 「腕の1本くらいは覚悟しました! どうか命だけは!」 「どういう意味?」 「殺さないでください!」 「そんな事、俺はしないけど」 何でこの流れで俺が人を殺すんだ? 「分かりました。自分でやれと。マカロンやります!」 ボキ! 「へ?」   「グッ。こ、これでネマルの無礼もお許しを」 「お、おっさん。私の為に……」  「な、なに。ネマルには世話になってるからな」 「おっさん」 「バカ野郎! 何をしてんだよ! 救急車を早く呼べよ!」 「きゅうきゅうしゃ? ヒーラーのことですか? ヒーラーは高いんですよ。こんなの唾をつけとけば治ります」 「治らねえよ!」 「ホームセンター様、バイトリーダーのお力でおっさんの腕を治してもらえませんか? 十分に痛い思いをしてます。すごく反省してますから」 「俺が? どうやって?」 バイトリーダーのお力でって、俺は医者でもないからな。 「いえ。こう、普通に腕を触って『治れ!』とか気合を入れたら治ると思いますが」 ……まあ、ここは夢の中。やればできるんだろうな。恥ずかしいけどな。俺は中二病か? やったら『あ、中二病だ!』とか笑うのか? 勤はマカロンさんの腕を触った。 「治れ!」 ピカッ 「わっ!」 「うおっ」 「まぶしい!」 「ホームセンター様、ありがとうございました! ほら、おっさんも御礼」 「あ、治った。ありがとうございました!」 「え?」 さっきまで折れていた腕をぐるぐる回すマカロンさん。 流石は夢の中だ。折れた腕を触って「治れ」と言っただけで骨折が治りやがった。これ、整形外科医は廃業だぞ。 「それで、その、バイトリーダーのホームセンター様が、この小さなギルドに何の用ですか?」 「ネマル。ギルド本部の覆面調査に決まってるだろ。抜き打ち」 「はう! わ、わ、私の失礼で無礼な受付対応を本部やお国に言われたら!」 「ネマル、お前、懲役10年ですめばラッキーだな」 覆面調査か。ホームセンターでもたまに来てたな。あからさまに普通は聞かれないような質問をされるから、覆面と言ってもバレバレなんだが。 夢の中だし、芝居をするか。 「そう。俺は国から依頼を受けた覆面調査官だ」 「ほらな」 「あわわわわ!」 「しかし、このギルドの空気感は気に入った」 「「え?」」 「新人候補とか言ってたが、新人を募集してるのか?」 「えっと……まあ、ここはギルドなので、随時希望者は受け入れてますけど。あ、適性検査はちゃんとしてます!」 「そうか。俺も適性検査を受けれるかな?」 「あばばばばば! と、と、とんでもないです! 今の骨折ピカッと治しで完全合格でございますです!」 「なら、この……ギルド?」 「はい。ギルド小猫でございます!」 「ギルド小猫?」 「小猫族でやってる小さなギルドです」 「俺は猫、好きなんだ」 「ありがとうございます」 「その設定、気に入った」 「え?」 「国の仕事は辞めて、このギルド小猫で働く」 「はあ?」 「ま、マジっすか? あ、す、すみません!」 「マジで」 「ありがとうございます!」 小猫族か。いい設定だな。自分のみてる夢の中と思ってる勤は自分で自分を褒めるのだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加