子猫族の秘密

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子猫族の秘密

「殺人罪で指名手配されていた、大学生で21歳の田中寿郎容疑者が逮捕されました」 日本では、そんなニュースが流れていた。 田中寿郎は溜口勤を殴り殺して逃走した。その現場を同じアパートの住民にスマホで撮影されていて、すぐに指名手配されていたのだ。 そう、溜口勤は異世界転生している。 異世界でホム・センタという名前の青年が死にそうになっていて、そのタイミングが良かったのかどうか知らないが、何かの偶然で溜口勤の魂がホム・センタに移ったのだ。 異世界転生あるあるで、チート能力も得てしまった。それが世界最強レベルの職業の1つ、バイトリーダー。 溜口勤は夢の中だと思っているが、実は異世界なのである。 ・・・・・ 「しかし、このギルドが最低限の仕事をしているか、今からテストする」 「あの、どんな?」 「受付のお姉さん、名前はネコムだったか?」 「ネマルです」 「ネマルがこの世界のシステムをどのくらい理解しているかのテストだ。俺が質問をするから答えろ」 「わかりました。が、合格点は?」 「100点満点で98点」   「えええ!」 「と、言いたいが」 「え?」   「80点にしてやる」  「ありがとうございます」  「まず、バイトリーダーについて説明しろ」 「あ、はい。バイトリーダーはこの世界で最強レベルの職業の1つで、魔法術、剣術、体術、治癒術を高レベルで使えます。知能も高レベル。たしか、世界中で40人くらいいるらしいです。以上です」 なるほどな。 「次の質問」 「あの、今の点数は?」 「トータルで計算する」 「失礼しました」 「ギルドのシステムを説明しろ」 「はい。ギルドは国から依頼を受けた仕事を、ギルドに登録しているギルドメンバーに委託します。大きなギルドから小さなギルドまで、たくさんのギルドがあります」 「この世界の種族を答えろ」 「全部ですか?」 「多い種族から10くらいで」 「えっと……人族、猿族、犬族、猫族、海族、魔族、鬼族の7種族が同じ数くらいで、その次は……熊族、土族、竜族と少なくなります」 鳥族はいないのか? 「この国にいる種族は」 「アルカリ国は人族、猫族がほとんどです」 「よし。90点で合格」 「え? もう終わり? あ、すみません」 カラン 「ただいま〜」 「あ、姉さん。おかえり。あのね」 姉さん? 小さな猫耳お姉さんのお姉さんなのか? 「あら、見ない顔ね。このギルド小猫の登録希望者なの?」 「はい」 「あ、あのね」 「坊や、年齢は?」 「21歳です」 「あら、18くらいかと思ったわ。でも、そんなか細い身体じゃあ使えないわねえ」 「ね、姉さん!」 「何よ」 「せ、せ、石版!」 「石版がどうしたの?」 「石版を見て! まだアクセス止めてないから!」 「石版? 職業バイトリーダー? ネマル、いたずらでこんな表示を出したら逮捕されるわよ」 「国のメインサーバーにアクセス中なのよ、分からないの!?」 「え? あら、アクセス中の文字が有るわね……えええ!? バ、バイトリーダーが、こ、こ、このギルド小猫に来たの!?」 「来てるの!」 「どこに?」 「この格好いいお兄さんです! あっ! 指差ししてすみませんでした!」 勤を指差しする受付の小さな猫耳お姉さん。 「えっと……ネマル。マジ?」 「こんな嘘を言ったら、私は最低でも懲役10年よ!」 「す、す、すみませんでした!!」 ゴン ゴン ゴン 尻尾をブルブルさせながら土下座をして床に頭を打ちつける小さな猫耳お姉さんのお姉さん。 何回目だよ。 ・・・・・ 「ホームセンター様、知らぬこととはいえ、とんだ失礼を。きっと私を変態の人族に売り飛ばすのですね。ああ、これも絶世の美猫に生まれた宿命。なんて可愛そうな子猫族の私……」 「お姉さんの名前は?」 「子猫族の中では5000年に1人の美人と言われているネトリです」 俺は名前しか聞いてないんだが。 「年齢は」 「女に年齢を聞くなんて。花も恥らう二十歳です」 俺より年下かよ。二十歳なのに子猫族かよ。 「ネマルは何歳なんだ?」   「二十歳です」   「ん?」 「双子の美人姉妹なんですよね。これが」   なんか、美人をアピールしてくるよな。 「このギルドの代表は?」 「父親だったんですが……」 「亡くなったのか?」 「いえ、金持ちで子猫族好きのマダムに飼われています」 「借金か?」 「はい」 「そうか」 よくある話……二十歳の娘の父親って40歳前後だよな? どうして美人姉妹を選ばなかったんだ? 「子猫族の男は女よりも美猫。お金持ちのマダムは父を連れて帰りました」 なるほどな。 「子猫族は寿命で死ぬまで可愛い子猫みたいな可愛いさですからね。マダムは父を私達の弟と勘違いしたようです」 「なるほど。母親は?」 「父を失ったショックで」 「寝込んでいるのか?」   「ブフッ!」 「ん?」 「ね、猫が寝込むって、ぶはははっ! あ、すみません」 そんなに面白いか? 「ショックでどうなったんだ?」 「ショックで寝込むふりをして、家でゴロゴロしてます。プッ」   「プッ?」 「ぎゃはははっ! ね、猫が家でゴロゴロ! ぎゃははは! あ、す、すみません。ぎゃははは! だ、だめ、もうだめ」   何がだめなんだ? そんなに今の面白かったか? 子猫族はこんなのが多いのか? と思った勤だった。
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