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モグラのもぐ太は今日もお空を見上げます。見渡すかぎりの青い空に、きらきらとまぶしい太陽、ふわふわのまっ白な雲がもぐ太は大好き。いつか鳥みたいに翼を広げて、あの空を自由に飛んでみたい。もぐ太にはそんな夢がありました。
モグラは穴をほる生きものです。しかし、もぐ太は穴をほりません。そのかわり、今日もせっせと外にお出かけ。鳥の羽をあつめ、木の枝をひろい、機械の部品を見つけては、巣穴に持って帰ります。そして、いそいそとそれらを組み合わせて、自分の翼を作るのです。
仲間たちは、もぐ太が不思議でなりません。
「なんで穴をほらないの?」
「ボクは空を飛びたいから」
「モグラは空を飛べないよ」
「それ、だれが決めたんだい?」
もぐ太の質問に、仲間たちはこう答えます。
「常識だから」
もぐ太はその答えに、こう聞き返します。
「常識ってなんのこと?」
するとみんなはいつも、こうやって返事。
「当たり前のことだよ」
「ねえ、当たり前っていつからあるの?」
……もぐ太の質問に、みんなはもう答えません。
仲間たちは、いつもそのあと「もぐ太は変でおかしなやつ」と歌を歌いながら、それぞれの巣穴に帰っていってしまいます。
もぐ太はそんな歌なんて気にもせず、毎日いそいそと自分の翼を作っていました。
◇
「ねえ、もぐ太。穴はすてきな場所よ」
手作りの翼が完成した日。もぐ太はうれしくて、幼なじみのもぐ葉を巣穴におさそいしました。ところが、もぐ葉はとても心配そうな顔を浮かべます。
「夏は涼しく、冬は暖かい。ミミズだっている」
「でもここはまっ暗だ。空は青いし、太陽はまぶしいんだ」
「モグラは空を飛べないわ。土の中で暮らす生きものよ」
「どこで暮らすかは、ボクが決めるよ」
「ダメよ」
「なぜだい?」
「だって、それが常識だから」
「キミまでそんなことを言うんだね」
もぐ太はさみしくなりました。幼なじみのもぐ葉なら、きっと気持ちをわかってくれると思っていたからです。もぐ太はひとりぼっちになった気分になりました。
常識ってなんのこと?
当たり前っていつからだい?
そもそも、だれが決めたんだい?
そんなもぐ太の質問に答えてくれる仲間は、それからも結局、一匹もいませんでした。
◇
事件が起きたのは、ある晴れた朝のこと。もぐ葉が突然いなくなり、モグラたちは大騒ぎ。なんと、オオワシに連れていかれてしまったのです。
仲間たちは口々にこう言いました。
「しかたないよ、モグラはオオワシには勝てない」
もぐ太は顔をまっ赤にしてこう言います。
「あきらめるのか、仲間だろ!」
仲間たちはこう返します。
「でもオオワシに勝てないのは常識だから」
もぐ太は怒りを爆発させて大声をあげました。
「また常識だって? もういい! キミたちはいつもそう。常識だ、当たり前だって! そんなもの、ボクがこわしてやる!」
もぐ太は大急ぎで巣穴に帰ると、手作りの翼を持ちだして、外にとびだしました。
「常識なんてウソだ! 当たり前なんてないんだ!」
翼を使うのは、実は初めてでした。飛べるかどうかもわかりません。もぐ太は不安な気持ちでいっぱいでした。それでも、もぐ葉を助けたいと思いました。
走って走って、ようやくたどり着いた高い丘。
森の木々は小さく見え、遠くに海も見えています。
「大丈夫、ボクは空を飛ぶんだ」
もぐ太は翼を背中にのせて、勢いよく走り出します。一番高いところまで登ると、おもいっきり足をふみこんでジャンプします。
「空を滑るように飛び、オオワシのもとへ!」
突然、強い風がうしろから吹きました。その勢いで、もぐ太は大きく空に飛び立ちます。
「ほら、当たり前なんてないんだ!」
まっすぐに飛んだ先にはオオワシの姿。もぐ葉も一緒です。もぐ太はからだの向きを変え、オオワシにむかって一直線。もぐ太に気づいたもぐ葉は、うれしくて涙を浮かべます。
「もぐ葉、つかまれ!」
──ドシンッ!
もぐ太に突進されたオオワシは、目をくるくる回しながら逃げていきます。すでにボロボロになった翼につかまり、パラシュートのようにして地面をめざす、もぐ太ともぐ葉。
地上では仲間たちが大声をあげてよろこんでいます。
「そら、見たか! モグラだって空を飛ぶ。当たり前なんてないんだ!」
もぐ太は仲間たちにむかって、得意げに叫びました。
さあ、ゆっくりと地上が近づいてきます。もぐ太は、地上に降りていくなか、ふと気になっていたことをもぐ葉に聞きました。
「もぐ葉、どうしてオオワシなんかにつかまったんだい?」
「あのね、青い空に見とれていたの」
「なんだって!」
「きれいだったわ。いま、あなたと見ているこの空もとてもきれい」
「キミが無事で本当によかった」
ふたりは無事に地面に降り立ち、仲間たちと抱きあいながらよろこびました。そしてそれからも、もぐ太ともぐ葉は、仲間たちと一緒に仲良くみんなで暮らしています。
え、どこで暮らしているかって?
……それは内緒。
なんたって当たり前なんてものはないのだから。
〈おしまい〉
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