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エピソード0. 神話
太陽の神と、月の女神がいた。星々は子らであった。
その子らのうちのひとつ、最後の子がこの星、すなわち地であった。
太陽の神は己が輝くことで自らの威光を照らして回った。
月の女神は夜の帳を纏うことで、自らの美しさを示した。
月の女神は我らが星を愛し、喜びの涙を流した。
その涙は雨となり、地の火照りを鎮めた。
地表を撫でるように潮が満ち、引いた。
大いなる女神の涙、星の上に新たな命を育む。
人々もそのうちのひとつだった。
神々は人々に言葉を与えた。
人々は言葉により大きな群れを成し、都市を作る。
透き通る石の窓、白い石の柱の立つ、神殿があった。
人々はそこで神々を祀り、神々は恵みをもたらした。
幾年が経ち、神々の子らのひとつ、命尽き、女神のヴェールを引き裂き流れ落つ。
女神の嘆き深く、残されたヴェールで御顔を覆い、姿を隠す。
その裂け目より悲しみの涙が流れ出す。
女神の涙尽きることなく、絶え間なく地表に降り注ぐ。
幾年か経ち、古の都市、星に沈むと言う。
人々のうちの大多数、都市と共に沈む。
彼らは声と引き換えに尾を得、人魚となる。
古の都市の神殿の、石の回廊を泳いでまわる。
海の中は陸とは時間の流れが異なる。
海の底では人の言葉は失われ、彼らは歌を歌う。
彼らは水平線に現れ、懐かしき故郷の陸を眺める。
彼らは仲間を欲し、時に歌で人を海へと呼び寄せる。
言葉通じずとも、かつて同じだったもの。
いまや人々の群れ、僅かに残された地表に点在するのみ。
大いなる女神の涙、人々を分かち、その数を減らす。
古の神話、語り継ぐ。
最後の一人となるまで。
言葉ある限り。
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