駆け落ちの朝

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 羽田を朝の十時に出発した飛行機は、約一時間半のフライトを終えて鳥取の地に到着した。  さっき窓から見えたキラキラ光る海は、中海(なかうみ)という湖らしい。  旅行ガイドブック片手に米子(よなご)鬼太郎(きたろう)空港に降り立った私は、キョロキョロと辺りを見回した。  国内線出口には出迎えの人が何人か立っていて、その隅に【辻堂優様】と書かれた紙を持っている大学生風の女性がいた。  なんで女の子?  疑問に思いながら彼女の目の前に立つと、「あ、本当に来た」と忌々しそうに舌打ちされてしまった。 「辻堂(つじどう) (ゆう)ですけど、春馬(はるま)さんのお知り合いですか?」  私の問いかけは至極当然のものだったと思うのに、その女性はプラカード代わりのA4の紙をぐしゃっと丸めると肩を竦めた。 「お知り合いじゃなくて、許嫁」 「イイナズケ?」  その何とも古めかしい言葉は、赤いタンクトップにデニムのショートパンツを身に纏った彼女には不似合いだ。  サンダルから覗いている真っ赤なペディキュアは、彼女の赤いメッシュのショートヘアにとてもよく似合っているけれど。 「そ。許嫁。だからチャットだか何だかで意気投合したとかいうあんたが出る幕はないの。大体さ、ネットで知り合って恋に落ちるなんて、正気じゃないよね? 実物に会ってみなきゃ、下半身デブかも口臭が酷いかもわかんないのにさ」  その酷い言われようにムッとして口を尖らせた。今どきネットで知り合った男女が結婚するケースだって増えているのに、『正気じゃない』とまで言い切るこの女は何者なのだろう。  歳は私と同じぐらいのハタチ前後に見えるのに、考え方が古すぎる。
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