運命のいたずら

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「それでいいんだよ。俺は最期の瞬間に言っちまったんだ。『妹だと知っても愛してた』ってな。それで美衣は自分の手首を切ったんだ。息絶える寸前に、俺が自分の(まこと)を信じて欲しいなんて思っちまったせいで、あいつは何度も何度も泣きながら手首を切ったんだ!」  慟哭する魂の叫びが奇跡を起こしたのかもしれない。  予想以上に早く救急車のサイレンの音が聞こえてきて、春馬さんと貴和子ちゃんは道案内するために岩場から上の道路へと向かった。 「元哉さん、私はあなたが自分の本心を美衣さんに打ち明けて良かったんだと思いますよ。恋人に裏切られたと思い込んで生きていくよりも、元哉さんにこれほどまでに愛されていたことを知って生きていく方がいい。きっと美衣さんは立ち直れると思います」  人一人を(あや)めてしまったのだから、美衣さんの罪は重い。  相思相愛の相手を手に掛けてしまったという後悔を、彼女は一生背負っていくことになる。  それでも元哉さんに愛されていた記憶は、彼女にとって重たい十字架であると同時に救いにもなり得るはずだ。  人の声が聞こえてきた。救急隊員たちが砂浜に下りて来たのだろう。 「もう逝きますか?」  心残りのなくなった魂は風と共にあの世へ行く。  元哉さんもそろそろ成仏するかと思いきや、彼は首を横に振った。 「まだ逝かねえよ。美衣の意識が戻るまでついてる」 「じゃあ私も。伝えたいことがあれば伝えられますから」  幸い大学は九月になってもまだまだ夏休みだ。美衣さんの意識が戻るまで春馬さんの家に居候させてもらおう。薫ちゃんには大目玉を食らうだろうけれど。  私はそんな心積もりでいたのに、元哉さんは「いいよ」と手をぶらぶら振った。 「言いたいことはもう全部言ってある。あいつに刺されてから俺が事切れるまで丸一日かかったんだから」  つまり、昨日の朝、美衣さんは元哉さんを呼び出してすぐに刺したのに、ずっと元哉さんのそばを離れなかったということか。  元哉さんは「丸一日かかった」と事も無げに言ったけれど、この岩場で二人はそれぞれどんな思いで長い一日を過ごしたのだろうか。
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