運命のいたずら

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 春馬さんは廊下の隅のベンチにポツンと座っていた。腕をだらんと垂らして脱力したような様子なのは、美衣さんを助けることができた安堵だけではないだろう。彼女の出生の秘密と事件の経緯を知ってしまった彼は、これからどうすればいいのか思い悩んでいるに違いない。 「優ちゃん、あたし、ああいう春馬には声かけられないんだよ。支えてあげたいけど、あたしなんか邪魔だろうし……」  貴和子ちゃんは「春馬が大学受験に失敗したときもそうだったんだ。何の力にもなれなくて」としょんぼりしている。 「たぶん春馬さんは貴和子ちゃんがそばにいてくれるだけで救われると思うよ? 私、もう帰るから春馬さんに声かけてくる」 「え⁉ もう帰っちゃうの? まだどこにも案内してないのに!」  ひそひそ声だけれど、貴和子ちゃんが私の胸倉を掴んだから、春馬さんにも聞こえたのだろう。彼が立ち上がるのが見えた。 「今度ちゃんと観光で来るから、そのときに案内してよ。冬はスキーが出来るんだよね?」  ガイドブックを思い出しながら尋ねると、「スキー場は格安だし、皆生(かいけ)温泉もいいよ」と春馬さんが会話に加わった。 「春馬さん、美衣さんのこと、一人で抱え込まないでね。春馬さんには貴和子ちゃんがついてるんだから。お互い相手のこと、大事に思ってるんでしょ?」  春馬さんが照れながらも「うん」と頷くと、「嘘⁉」と貴和子ちゃんは口元に手を当てた。  貴和子ちゃんの気持ちはダダ漏れだけれど、春馬さんはちょっとひねくれている。私がお節介を焼かないと、彼の気持ちは貴和子ちゃんには届かないだろう。 「あのね、貴和子ちゃん。春馬さんは貴和子ちゃんのこと大事に思ってるから、霊能力者絡みの失踪事件に関わらせたくなかったんだって。『貴和子は怖がりだから』って言ってた。春馬さんが『親が決めたからって結婚する気にはなれないよ』って言ったのは、自分たちの自由意思で選び選ばれたいってことだと思う」 「春馬、そうなの? 私は親に反対されても、春馬を選ぶよ?」  どこまでもストレートな貴和子ちゃんに、春馬さんはたじたじになりながらも「僕も」と呟いて貴和子ちゃんの手を握った。
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