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目の前のリア充が羨ましい。
美衣さんと元哉さんのことを考えれば恋愛は楽しいだけじゃないと思うけれど、好きな人に自分を好きになってもらえた瞬間はきっと幸せだ。
いつか私にもそんな瞬間が訪れるだろうか。薫ちゃんのことを諦めて。他の誰かに恋をして……。
そういえば今日は海辺を歩いていても、死者の霊たちが寄ってこなかった。
薫ちゃん無しで生きていけるようになってきたということかもしれない。もちろんいつかはそうならなくてはならないのに、自立は寂しいような心細いような気がした。
「美衣さんの意識が戻りました。少しならお話もできます」
集中治療室のドアから医師が出てきて、喜一さんと澄子さんを招き入れるのが見えた。
「良かったー!」
貴和子ちゃんが泣きながら春馬さんに抱きついて、春馬さんも貴和子ちゃんをギュッと抱きしめた。
「いいなぁ、あいつらは」
いつの間にか隣に立っていたのは元哉さんだ。
「元哉さんも来世では幸せな恋ができますよ、きっと」
そうであってほしいと思う。元哉さんは何も悪くなかったのだから。ただ別れ方を間違えただけだ。
「だといいけど。あー、俺は来世も美衣と恋人になりたいなぁ」
照れ笑いを浮かべた元哉さんは、集中治療室のドアの向こうの美衣さんを見ているようだ。この人はどれだけ美衣さんのことが好きなんだろう。
それなのにこんな結末を迎えなくちゃいけないなんて、涙が滲んできた。
「じゃ、もう逝くわ。サンキュー」
すっと風が吹いて、元哉さんの魂は呆気なく消えていった。
あの世からずっと美衣さんを見守り続けるのだろう。
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