恋する気持ち

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 貴和子ちゃんの車で春馬さんの家に置いてきた荷物を取りに戻ると、なぜか薫ちゃんが玄関前に立っていた。 「薫ちゃん⁉ え? どうして?」 「それはこっちのセリフよ! また一人で依頼を受けたりして! 一体どういうつもり? 夏休みの課題だって、まだ全然終わってないくせに!」 「あー、えっと、ごめんなさい! 課題のことは言わないで……」  どうしよう、全部バレてる。  茅ヶ崎先輩が薫ちゃんに締め上げられて、あっさり白状したに違いない。絶対そう! 「大丈夫なの? こんな霊がわんさかいるような古い土地で」 「それが不思議と平気だった」 「そうなの?」  心配そうに訊いてきた薫ちゃんが、私の返事にうろんな眼差しを向けてきたけれど、強がりでも何でもない。  神話の残る土地だからこそ、何か結界のようなものがあるのかもしれない。  ご先祖さまたちが辻堂家の周りに張り巡らした結界が、何百年経っても私たち子孫を守っているように。 「その様子じゃ一件落着?」 「うん。行方不明だったお姉さんを発見できた。恋人の元哉さんはダメだったけど、彼女は一命をとりとめたよ」 「間に合ったんだ? 頑張ったわね」  薫ちゃんにヨシヨシと頭を撫でられて、じわりと熱いものが込み上げてきた。  そうだ。今回は間に合った。  いつもは依頼人の大事な人を捜しだしても、すでに亡くなっていて悲しい結末しかなかったのに、美衣さんは助けることができたんだ。  ただ、それは元哉さんの後を追おうとした美衣さんの望みとは違うし、彼女はこれから茨の道を歩まざるを得ない。  美衣さんにとって『良かった』とは言えないかもしれないけれど、彼女を愛する家族にとっては生きていてくれただけで『良かった』と思えるはずだ。  そして、いつかは美衣さん自身も(あのとき死ななくて良かった)と思えるようになってくれればいいと思う。
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