恋する気持ち

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「あの、優さんの従兄さんですよね? すみません! 僕が親の手前、恋人が訪ねてきたということにしてくれと優さんに頼んだんです。うちの親は世間体を気にして、姉を捜そうともしなかったから。優さんに単独行動を取らせてしまってすみませんでした」  春馬さんが焦ったように早口で説明して、薫ちゃんに深々と頭を下げた。  たぶん彼は茅ヶ崎先輩から聞いていたのだろう。ゲイの薫ちゃんを怒らせると怖いってことを。  今日の薫ちゃんは清楚な紺色のワンピースを着ていて、すね毛一つ生えていないスラッと長い綺麗な脚を見せている。薫ちゃんがこの暑い中、春馬さんの家の前でどれだけ待っていたのかわからないけれど、メイク崩れもしていない完璧な美女だ。  だからこそ、薫ちゃんがオネエ言葉を忘れるぐらい怒ると半端なく迫力があるし、実際昔やんちゃしていたからケンカ慣れしている。 「恋人? ふーん、あんたたち恋人のフリをしてたわけ?」 「や、フリって言うか、両親に恋人だと紹介しただけで……」 「春馬の本当の恋人はあたしですから!」  にじり寄った薫ちゃんに春馬さんがたじたじになっていたら、貴和子ちゃんが高らかに宣言した。 「え、僕たち”恋人”でいいの?」 「えー? 愛し合ってるんだから恋人でしょ?」 「『愛し合ってる』って……まあ、そうなんだけど。照れるなぁ」  初々しい会話を繰り広げている二人を微笑ましく思って見ていたら、薫ちゃんにポカッと頭を小突かれた。 「ったく、心配させて! あんた、誰とも付き合ったことないんだから、彼女のフリなんかしちゃダメよ」 「すぐバレるってこと?」 「それもそうだし……この先、優の本当の彼氏になる男に悪いでしょ?」 「ただの言い訳なのに?」 「ただの言い訳でも!」  「ふーん」と肩を竦めた私は、恋愛に疎いから何がいけないのか全然わからない。  とりあえず「ごめん」と薫ちゃんに謝ると、驚いたように目を見開いた薫ちゃんが「あー、もう!」と叫んで私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。  心なしか薫ちゃんの耳が赤くなっている気がしたけれど、私の勘違いだろうな、きっと。
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