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龍神様にはかなわない!
「黒雲よ、いざ北へ」雲上に戻った、雷神は雲の端で櫓を漕いだ。
「おお、途轍もない雲が遥か南に見えるわい」風神は手で庇を作って遠くを仰ぎ見る。
「どうしたことだ? 雲が前に進まない」
「なんじゃと?」
「櫓を漕いでもなにかに引っ張られているようで、動きが取れん」雷神が憔悴したような声を出す。
「まさか、時すでに遅しか?」風神も動揺が隠せない。
「龍神様の颶風に引き寄せられているようだ」雷神の額から汗が滴る。
「巻き込まれたら、最後。俺たちもてんでばらばら。引き離される」
「こういう時はエレキテルのレイディオだ、待っておれ」
雷神は携帯ラジオの電源を入れる。雷神のそうした時代への順応性を風神は羨ましく思っている。
〈台風11号は、石垣島の南東60キロにあって、北へと進んでいます。中心気圧は945ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は40メートル、中心から半径200キロではすでに暴風と高波の警戒が必要です・・・〉
「なんと! 龍神様はすぐそこじゃったな。どう足掻いても無駄じゃ、風神よ、今年もお前と働けて楽しかったわい。また来年の7月7日、三条大橋で会おうじゃないか」
「うむ。新選組の刀傷が残る擬宝珠のもとで。雷神・・・達者で!!」
ビュービューと音を立てて颶風の風が雷神たちの雲を引き寄せるように、迫ってくる。
途方も無い引力が彼らを吸い込んでいった。
「風神も達者で!!」
「応!」
彼らは、暴風の渦巻の中に吸い込まれていってしまった。
◆◆◆◆◆◆
その後の彼らの行方は杳として知れない。
ある者は、越後で冬に雷を起こす姿の雷神を見たという。
ある者は、雷神は浅草で「神ではなく菓子になった」という。
またある者は、冬の風三郎と名乗る風神を見たとか見ないとか・・・。
彼らは時に自然の猛威を振るう。しかし一方で、大地に天の恵みを授けてくれる。
夏の夕立に出くわしたら、風神・雷神に思いを馳せて欲しい。
♪鬼のパンツはいいパンツ、強いぞー強いぞー 虎の毛皮でできている、強いぞー強いぞー♪
雨の中、歌っていれば、彼らが血相を変えて空から降ってくるに違いない。
「我らは鬼ではない! 夕立の神である!」と。
おしまい
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