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③
マウントを取っていたはずが、腕を引っ張られて、ぐるりと世界が回転して奏から見下ろされる状態になってしまった。
「そうか、お前は俺が気に入らなかったのか。残念だな、気に入られることの方が多いのだが」
「ハッ…、自意識過剰の変態野郎が! 俺にしゃぶられてアンアン鳴いてたくせに」
「人を煽るのが上手いな…。それなら、お前には俺に掘られてアンアン鳴いてもらおうか」
「なっ…おっ…お前……」
「俺は両方イケるし、むしろ男の方が好みなんだ。言っただろう、女じゃ満足できないって……」
あれはそういう意味だったのかと今さら気がついて頭がクラりとした。
押し返そうとして手足に上手く力が入らなかった。
今頃になって酔いがまわってきたらしい。
「俺を酔わそうとして強い酒をむせながら飲んでいたな。あれは見ていて可愛かったぞ」
「だっ…フザけんな!」
「さぁ、次は俺の番だ。良い声で鳴いてくれよ」
「誰が…クソ……離せ!!だっ…あっ…やめ……」
奏は俺をベッドに縫い付けて、前が全開になった胸元に顔を埋めて、俺の乳首にかぶりついた。
さすがの舌使いだ。ペロペロと舐められながら時折甘く噛まれて引っ張られると電流が流れたみたいにビリビリと感じて下半身に熱が集まってきた。
「くっ……は…………っっ……」
「おいおい、威勢がいい割にはスカートの中はもうドロドロじゃないか、下着まで女物か…変態はお前の方だな」
「うっ…せ……ばか」
「そんなことを言っていいのか?ちんこおっ立てて、だらだら溢しているくせに」
「はぁ……ぃぃ……だめ…だ……やめ…あっ…ぁ…ぁ」
奏は俺のスカートを捲り上げて、立ち上がったペニスをあの大きな手で包んで擦ってきた。先走りでぐちゃぐちゃになったソコは、ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てながら、パンパンに張り詰めていて、今にもイキそうになっていた。
「おっ…と…、簡単にイかせないぞ……」
「あ…いっ……っっ!!」
奏は手慣れた様子で、ベッドサイドにあった小さなパッケージを片手で口元に持っていき、歯で噛んで破り中からゴムを取り出した。
そのゴムを長く伸ばして、俺の鈴口に巻きつけた。
射精を禁じられるのは圭吾にもよくやられた。だが、痛みと不快感しかなかった行為がなぜか今は心臓が破れそうなくらいドキドキと鳴っていて、強く縛られることに快感すら覚えてきた。
「ははっ…淫乱め、ちんこ縛られてギンギンじゃねーか。だらだら溢すなよ」
「くっ……」
ひどい言われようにも、体は反応して後ろがきゅっと締まってしまった。
そんな状態を悟られたくなくて、俺は必死に奏の顔を睨みつけた。
そんな俺を見て奏は涎でも垂らしそうなくらい、興奮したような顔で笑っていた。
すぐに回り込んできた指が後孔を探り当ててしまった。するりと指が入り込んで、奏はニヤリと笑った。
「はっ……なんだ経験者か。ずいぶんと緩いな、ここに来るまでに他の男のモノを咥えてきたのか?」
カッと顔が熱くなって、俺は目を逸らした。
本物は圭吾と別れた二年前が最後でずっとご無沙汰だ。
だが教え込まれた快感を忘れることができなくて、一人で弄ることで何とか発散してきたのだ。
「それにしては体に何の痕もない…。淡白な男か……それとも玩具か……」
鋭い指摘にまた顔が熱くなり思わず手で顔を隠してしまった。無理矢理ヤラれるよりも、日常をえぐられる方が恥ずかしくて死にそうだ。
「ああ、玩具の方か……。どうやら深窓の令嬢はひとり遊びがお好きらしい」
「ば…っ…もう…言うな!」
その話題はやめてくれと顔から手を離したら、手早くゴムをつけて自分のペニスに潤滑用のローションを塗っている準備万端な奏の姿が目に入った。
「そ……そんな……デカイやつ……入らな……」
思わず腰が引けたが、奏はこれだけ緩いなら入ると言って俺の足を持ち上げて後孔にあてがった。
「いっ……いて……ぇ……ばか…ふざけんな…」
「痛い?多少指で広げたが、すんなり入っていくぞ…、ああ、確かに奥は狭いな…、なかなかいい具合だ。絡み付いて搾り取られそうだ。気に入った」
「いっ………く……そ……」
「さて、ここからが本番だ。宣言通り、掘られてアンアン鳴いてもらおうか」
ベッドサイドの灯りに照らされて、奏の黒い双眼がギラリと光った。
まるで獣に喰らい尽くされるように、怯える気持ちすらも快感となって俺を支配していく。
それでも手放してなるものかと俺は歯を食いしばって奏を睨みつけた。
高級ホテルのベッドのくせにやけにデカい音を立ててギシギシとスプリングの音が室内に響いていた。
何時間経ったのだろう。
奏は俺の中に挿入って、激しく突いたり甘く焦らすように抜き挿ししたりしながらずっと責め続けていた。
しかも、俺をイカさないくせに、自分は何度か果てていて、ゴムが足りなくなるなんてバカなことを言って一人で笑っているのでまるで悪魔だ。
もう何度目か分からない、イキそうになるのにイケない感覚。
そんなものは苦痛でしかないと思っていたのに、苦痛はおろか、指の先まで性感帯になったように俺は快感の肉の塊になっていた。
「ほら、そろそろ鳴けよ。アンアン可愛い声を聞かせてくれる約束だろう」
「ふ……くっ……つっっ………」
足を最大限まで折られて腰を持ち上げられて、ゆっくりと抜き挿しして、わざと陰茎が入った後ろを見せられた。俺のペニスは真っ赤になって今にも破裂しそうになっていた。
「イきたい、だろう」
「あ……あ……」
悪魔のように耳元で囁かれたら、全身で果てを求めている俺の体は無意識に動いて奏の腕に縋りついた。
「可愛いことをして……イきたいって言えばいいんだ。自分を解放しろよ、好きなだけ声を出して淫らに達してみろ」
「ふ……ぁ………」
そんな風に誘われたら、頭の中はそれしか考えられなくなる。イきたいイきたいイきたい……。
そればかりがぐるぐると回って俺の口を開けた。
「……イきたい」
「じゃあ鳴けよ…」
ゆるゆると腰を動かしていた奏が、一度深くまで突き入れてから、パンパンと肉がぶつかる音がするくらい、今までで一番激しく腰を打ちつけてきた。
「あああああああっ…ああ…ああああ…」
もう、俺には何も残されていなかった。ちっぽけなプライドも、意地張って守ってきたものも何もかも壊れてしまった。
それは、恐ろしいくらい気持ちが良かった。
「だめ…だめだめ……出るでるでる…ああああっ……いく……イク……っっ」
いつの間にか俺のペニスに結ばれていた戒めが解かれて、俺は溜まりに溜まったものをこれでもかとブチまけた。
全身が痙攣して泡を吹いて倒れそうなくらい、絶頂の快感がいつまでも続いて終わりがない。
目の前がチカチカと光って、怖くなった俺は手を伸ばした。
記憶が混濁して、遠い昔にこんな風に手を伸ばしたことがあったのを思い出した。
炎天下の駐車場、三人で遊んでいて、突然飛び出してきた車に驚いて、全員地面に転がった。
駆けつけてきた両親。
弟は継母が、妹は父が抱きしめた。
俺も手を伸ばした。
けれど誰も抱きしめてくれることはなく、虚しく地面に手が落ちていたのを今こんなところで思い出した。
がっしりとした温かいものが俺を包んでいた。
ああ、よかった。
やっと、抱きしめてもらえた。
やっと……。
「あ……ありがとう」
深い闇の中に落ちていく瞬間、その温かさにお礼を言ったような気がした。
だって嬉しかったから、ずっと待っていたから。
ふわふわとした温かさに包まれて全て手放した。
そこで俺の意識は完全に途絶えてしまった。
「本当にごめんねぇ、コレお土産」
大学の講義室で外国のコスメが大量に入った箱を渡されて、ありがとうと言って俺は急いでバッグに詰め込んだ。
さすがに男がこんなに化粧品を持っているところを見られたら言い訳が面倒だ。
「お見合い、問題なく終わったみたいだね。黒崎さんの方からいいお話でしたがって連絡が来たって。もっと暴れてくれても良かったのに、両親と取っ組み合いの喧嘩するつもりで帰ってきたのよ」
「いや…あば…暴れた…ような気がしたけど……」
「涼介は優しいからなぁ。こういう役は難しかったよね。ごめんね、本当頼んじゃって」
何と言っていいか分からず、俺はヘラヘラと笑った。
自分でも何が起きたのか、記憶が曖昧で思い出そうとすると顔が熱くなってしまう。
おまけに体まで反応してしまうので、もう何をされたのか、考えたくない。
どうやら俺のイタズラに向こうは大人の対応をしたらしい。
あの、めちゃくちゃにされた夜、俺は途中で気を失って気がつくと朝日を浴びて、デかいベッドの真ん中で大の字になって一人で寝ていた。
すでに男は部屋を出ていたが、俺の体は綺麗にされて、ガウンまで着せられて…。
おまけに朝食が用意され、男物の着替え一式と、タクシー代まで置いてあった。
ワンピースはクリーニングされたものが置かれていて、バッグや靴もまとめられていた。
それを見たら寝ぼけていた頭も、水をかけられたみたいにハッキリして、動揺でベッドから転げ落ちた。
一夜のお遊びの相手にしてはずいぶんと気を使う男だ。
結菜やムトーの会社に抗議するようなこともないらしい。
ほっと胸を撫で下ろすと同時に、あの夜はまるで幻だったかのように思えてしまった。
あんな、セックスを知らなかった。
いつも一方的に欲望を吐き出されるだけのものしか知らない。
あんな風に自分を引き出されて、丸ごと解放されるような交わりは、一度経験してしまえば二度と忘れられないだろう。
それほど気持ちよくて、悔しいくらいに最高の夜だった。
「あ…あのさ、黒崎って人さ、他には何も言っていなかった?」
「え?……別に何も……何かあったの?」
俺は慌てて別に何もないと言って誤魔化すように笑った。
何を聞いているのだと、自分に腹が立った。
向こうは遊び慣れた大人の男だ。好きじゃなくても付き合って、飽きたら捨てるだけの関係で生きてきたような男。
住む世界がちがう、一夜遊んだ相手のことなんて覚えてすらいないかもしれない。
とてつもないセックスをしたから、気持ちが引っ張られているだけだと、早く忘れたくて机に突っ伏して目を閉じた。
今日の魔法は結菜にお土産でもらったルージュ。
目元はブラックに染めて目尻をツンと尖らせてテーマは小悪魔。
カラコンに、ウィッグは明るい茶色のウェーブかかったロングヘア。
黒の透け感のある素材のトップスに黒いレースの短パン。
ムダ毛の処理は完璧、足を出しても問題なし。ヒールの高いサンダルを戦いに出る戦士のように引っ掛けて、街へ繰り出した。
とは言っても、俺の女装はあくまで趣味。
これを使って男を誘うなんてするつもりはない。
適当に街をぶらついて、一人でお茶を飲み、SNSを更新して、のんびり過ごした後帰路に着く。
毎回こんなコースだ。
声をかけられることはあるが基本無視。
そうすれば、誰も深追いはして来ない。
「今日はまるで黒い子猫みたいだ。それとも小悪魔か?」
「…………」
「たまたま頼まれてやったにしては似合いすぎていたからな。そっちの趣味があったのか」
「…………」
さっきから車で横付けして、ずっと話しかけてくる男がいる。いくら無視しても全く折れることがない。
「……アンタなぁ! 俺にあんなことしておいて、よく話しかけられるな!」
「それはお互い様だろう。俺のを先にしゃぶったくせに」
「っっ!!」
いくらなんでも往来で出していい言葉ではない!俺は慌てて手を伸ばして、その男、黒崎奏の口を塞いだ。
いい加減に乗れよと目で促されて、運転手付きの高級車の後ろに仕方なく乗り込んだ。
「何の真似だ! 偶然見つけても話しかけないのが大人のマナーじゃないのか!?」
「悪いがそこまで大人になったつもりはない。それに、偶然ではなく、お前を待っていたんだ」
「まっ……はぁ!?俺を?」
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