風鈴

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ

風鈴

 四十九日後、三人はお墓に来ていた。 法要と納骨を終えた時、勝久が口を開いた。 「言っておきたい事がある」 泰子と達郎は勝久の方を向くと、勝久はさらに続けた。 「俺も今から手紙と動画を残しておく事にする」 と、真っすぐにお墓を見つめたまま言うと 「なに? じいちゃんの真似すんの?」 と、達郎は笑いながら冷やかすように言った。 「ああ。良い事は真似しないとな」 勝久は達郎に視線を落とし、ニヤっと笑った。 「でも、お母さんはお父さんの手紙とか動画って嬉しいの?」 達郎は泰子に問いかけた。 「そりゃ嬉しいわよ。私も手紙書いておこうかしら」 ふふっと笑いながら、泰子は言った。 「それも良いな。よし、お互い相手には内緒で書き溜めておくか」 勝久はそう言うと、空を仰ぎ、両手を広げ、背伸びをした。 「良いわね。こっそり読んだりしないでよ?」 「そんな事する訳ないだろ」 勝久と泰子は、笑いながら話をしている。  ふぅと溜息を吐いた達郎。 何だか恥ずかしく、照れくさいのだろう。自分の両親が目の前でイチャつき始めたのだ。 声も掛けずに、達郎は二人に背を向けて車の方へと歩き始めた。 その顔は、晴れ渡る空のように澄んでいる。  そんな時、優しい秋風が吹き抜けた。 同時に、達郎には確かに聞こえた。 聞えるはずのない、夏江の風鈴の音が。 「ありがとう」 そう言っているような気がした。  優しい秋風は日没まで吹き続けた。 この日、風鈴は愉しげに踊り、温もりのある音色を奏で、町中にその音を響かせたのだった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!