家族

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家族

 夏江は泰子(やすこ)と一緒に夕飯の準備をしていた。  昌爺と夏江には一人息子の勝久(かつひさ)がいる。 その妻である泰子が嫁いできて二十一年。 四十四歳の泰子と夏江の関係は、嫁姑問題もなく良好である。 夏江に料理を一から教えてもらい、今では味付けまで同じになった。 一緒に台所に立つこともしばしばあり、近所でも有名な仲良し親子である。  昌爺も勝久も魚料理が好きな為、今夜は魚のフルコースを作る予定だ。 夏江は鯛のアラでお吸い物を作り、泰子が鯛のカルパッチョを作る。 ヒラメの煮付けも良い感じに火が通ってきた。 家の中にお腹が空く匂いが充満している。  泰子たち夫婦には、育ち盛りの息子が一人いる。 中学二年生の達郎だ。 魚料理ばかりだと、きっと文句を言うに違いない。 成長期の男の子には、肉料理と相場が決まっている。 達郎の為に、夏江は唐揚げも作っておいた。  夕食。 そこには穏やかな時間が流れていた。 皆が談笑するテーブルには、夏江と泰子が用意した料理が並べられている。 昌爺の隣には家族からもらった誕生日プレゼントが置いてある。  反抗期の達郎はムスっとしているが、何も言わなくとも、家族である。 普段はなかなか一緒に食べてくれない達郎が、今日は一緒に食べてくれている。 プレゼントはなかったが、反抗しながらもこの席にいる。昌爺はそれだけで嬉しかった。  肺ガンになった昌爺も、年に二回だけ飲酒をする。 お正月と誕生日だ。  久しぶりの酒に、昌爺は気持ち良くなっているのだろう。 顔は赤く、普段よりも少しお喋りになっている。  昌爺は酒が入ったせいか、いつもより早めに就寝する事にした。 プレゼントを持ち、上機嫌で部屋に戻る昌爺。その足取りは軽やかだ。  台所では夏江と泰子が、夕食の片付けをしている。 「お義母さん、お義父さん喜んでくれましたかね?」 泰子は心配そうに聞いた。 「あぁ、そりゃ喜んでるよ」 夏江は答えた。 「だと良いんですけどね」 と、泰子は茶碗を洗いながら言った。 「大丈夫さ。おじいさん嬉しそうだったじゃないか」 夏江は思い出して顔が綻んだ。 「そうですか?私にはいつものお義父さんにしか見えませんでしたけど」 泰子は、スポンジに洗剤を付け足しながら言った。 「あの人は分かりにくいからね。時々、私でも分からない時があるから」 と、夏江は含み笑いをした。 「お義父さんって、あまり笑ったりしてくれないから、本当に分からなくて」 泰子は苦笑いを浮かべた。 「心配しなさんな。私はあんなに楽しそうなおじいさん、久しぶりに見たよ。これで喜んでなきゃ私がぶっ叩いておくよ」 と、夏江は笑いながら食器棚を閉めた。 「その時はお願いします。ついでにもっと笑うようにも伝えておいてください」 泰子も笑うと 「あいよ!任せときな」 夏江は親指を立てて、ニコっと笑った。  二人の笑い声は、食器のカチャカチャという音と混ざり合い、どこか子守唄のような心地良さを奏でていた。
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