19人が本棚に入れています
本棚に追加
高鳴る鼓動
―――
あれから数日後、俺らはそれぞれ別々の場所にいた。あの時以来五人が一緒になる事はなく、俺達の間には今までにない空気が流れていた。……まぁ、そう思っていたのは俺だけなんだろうけど。
裕は曲作りの為にスタジオに籠っていて浩輔は今日は休み。辻村は一人で雑誌のインタビューを受けている。そして俺は晋太と次のライブの最終打ち合わせで事務所にいた。
基本的に俺達『STAR』のライブは俺か晋太が演出を任されていて、今度の武道館ライブは二人でやる事になっていた。
「仲本君……」
打ち合わせの最中なのに椅子に凭れてボーッとしていた俺に、晋太のちょっと怒ったような声が届く。慌てて椅子から体を離すと、机に置いておいた晋太が作った企画書に目を戻した。
「悪い……聞いてなかった……」
「あのさ、話したい事があるんだけど……ちょっといい?」
またいつものように『ちょっとぉ~!ちゃんと聞いてよ~』って感じで明るく冗談っぽく返される事を期待していた俺に聞こえたのは、晋太の思い詰めたような声だった。パッと顔を見ると表情も固い。そんな晋太のただならぬ様子に俺は素直に頷いた。
すると晋太は無言で椅子から立ち上がると部屋のドアに向かって歩き出した。慌てて追いかける。一緒にいたスタッフが驚いた顔で俺達を見た。
「ちょっ……待てって!晋太!お前足早いよ。」
俺より少しばかり身長が高い上に、足も当然長い。脇目もふらずすたすたと先を歩いていく姿を見ながら俺は必死で晋太の後を追った。
.
最初のコメントを投稿しよう!