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「あ、足大丈夫なのか? 走っても」
表情を曇らせる理宇に、新はさっきまでとは種類の違う笑顔を浮かべた。理宇を安心させるような、穏やかな表情だ。
「平気。前も言ったけど、普通に歩いたり走ったりはなんの問題もないから」
「そっか。痛くないならいいんだけど、うん」
新は将来有望な短距離選手だったけど、ケガが原因で陸上は高校でやめている。高校最後の大会前に、膝の靱帯を傷めてしまったのだ。その影響で大会での結果は振るわなかった。そして、今後0.01秒を競うための過酷なトレーニングに耐えるのは難しいと診断された。
当時のつらい気持ちを少し思い出して、理宇はそれをごまかすみたいに笑った。つらいのは自分ではなく新だったのに、勝手に悲しんで、挙句の果て泣いたりして。かなり鬱陶しかったかもしれないと今さらながら思う。
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