715人が本棚に入れています
本棚に追加
「陸上は高校でやり切ったし、大学も今の仕事も、何一つ後悔してないから」
理宇の心情を見透かしたように、新が明るくよどみのない声で告げた。
「そう思えるのは理宇のおかげ」
「え……なんで、俺?」
新が懐かしむように笑って、ゆっくりと理宇のもとへ近づいてくる。
「俺がケガした時、理宇専門学校で忙しかったのに、誰より心配してくれたでしょ。電話もメッセージもいっぱいくれて、ケガを代わってやれたらいいのにって泣いてくれた」
「う……だって、新あんなにいっぱいトレーニングして頑張ってたのにって思ったら悔しくて」
「うん、だから、いいかって思えた」
傍まで来た新がしゃがんで、理宇と同じ目線になる。
「記録に残るような結果は出せなくても、積み上げた努力をちゃんと見て、認めてくれる人がいるんだって思えたから。だから最後やり切って、終わりにしようって切り替えられた」
「新……」
最初のコメントを投稿しよう!