第8話

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 ボトルに手を伸ばす理宇の隣りで、振り返った雪哉が新の位置を確認する。  そして、すっと顔を寄せ、こっそり耳打ちをしてきた。 「ここは敢えて強めの買って、酒の勢い借りてみるか?」 「何言って……」 「それとも、新くん酔い潰して押し倒す?」 「っ!」  勢いよく雪哉に向き直り、思わずその肩を小突く。 「もう、変なこと言うなってば!」  雪哉は珍しくおどけて、ぺろっと舌を出した。  新がすぐ傍まで追いついたのに気づいて、理宇は何事もなかったような顔を取り繕う。 「あ、新。これが飲みやすいんだって。値段もお手頃」  新は指さしたワインではなく、理宇の顔を見てくる。  まるで理宇の中の不自然さを探すようにじっと見られて、冷や汗が滲んだ。 「じゃあ、それにしようか」  微笑みとともに返ってきた答えに、入っていた肩の力を抜いた。
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