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「あの、新……」
名前を呼んだきり、言葉が出てこなくなる。新は黙り込んだ理宇を見て小さく笑った。
「理宇が嫌なら、無理にとは言わないから」
その笑顔は頼りなくて、少し悲しそうに見えた。
新を傷つけている事実に、胸が痛んで、理宇はまとまらない頭のままどうにか言葉を絞りだす。
「嫌とか、そういうんじゃなくて」
結局意味のない言葉しか出てこなくて、自分の不甲斐なさに泣きたくなった。
「俺、理宇の憩いの場を邪魔する気ないから」
「新……」
理宇を慰めるように、新が微笑む。
「そんな気にしなくていいって。軽い気持ちで言っただけだし」
ほら、行こう、と理宇の肩を優しく叩いて、新が先に歩き出す。
(ごめん、新。ほんとのこと言えなくて)
ピンと伸びたその背中に、理宇は心の中で何度も謝罪の言葉を投げた。
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