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第9話
新の部屋に帰宅すると、手を洗ってさっそく調理に取り掛かる。
「よし。肉の運命は新に託す」
敬礼をする理宇に、新は笑いながら「わかった」と同じポーズを返してくれる。
理宇はステーキ以外の担当だ。赤ワインは冷蔵庫に入れてある。
「キッチンペーパーで水分を拭きとって、塩胡椒を振る」
スマホに表示した「美味しいミディアムレアステーキの焼き方」をしっかり確認しながら、新が丁寧に準備をしていく。
魚は結局刺身用に切られた鯛を選んだ。まずは皮を剥いた玉ねぎをスライサーで薄く切っていくのだが……。
「あーっ、無理、すごい目にくる」
玉ねぎの刺激に涙があふれる。鼻も痛い。
肩口でどうにか涙を拭おうとするが、うまくいかない。
「理宇、こっち向いて」
呼びかけに振り向くと、新がティッシュで顔を拭いてくれた。
「うー、ありがと」
丁寧に拭われて、目をしぱしぱさせながらお礼を伝える。
「……俺もしみてきた」
赤くなり始めた目元を、新が自らティッシュで押さえた。
「なんか前にテレビでしみない方法やってたんだけど忘れたなぁ」
「調べようか?」
「ううん、もうちょいで終わるから勢いでやる」
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