第9話

1/18
前へ
/416ページ
次へ

第9話

 新の部屋に帰宅すると、手を洗ってさっそく調理に取り掛かる。 「よし。肉の運命は新に託す」  敬礼をする理宇に、新は笑いながら「わかった」と同じポーズを返してくれる。  理宇はステーキ以外の担当だ。赤ワインは冷蔵庫に入れてある。 「キッチンペーパーで水分を拭きとって、塩胡椒を振る」  スマホに表示した「美味しいミディアムレアステーキの焼き方」をしっかり確認しながら、新が丁寧に準備をしていく。  魚は結局刺身用に切られた鯛を選んだ。まずは皮を剥いた玉ねぎをスライサーで薄く切っていくのだが……。 「あーっ、無理、すごい目にくる」  玉ねぎの刺激に涙があふれる。鼻も痛い。  肩口でどうにか涙を拭おうとするが、うまくいかない。 「理宇、こっち向いて」  呼びかけに振り向くと、新がティッシュで顔を拭いてくれた。 「うー、ありがと」  丁寧に拭われて、目をしぱしぱさせながらお礼を伝える。 「……俺もしみてきた」  赤くなり始めた目元を、新が自らティッシュで押さえた。 「なんか前にテレビでしみない方法やってたんだけど忘れたなぁ」 「調べようか?」 「ううん、もうちょいで終わるから勢いでやる」
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

715人が本棚に入れています
本棚に追加