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「理宇は仕事だとあんなに几帳面なのに」
新がくすぐるような視線を向けてくる。
「んー、なんか種類が違うんだって」
わずかに唇を尖らせて、新のまなざしから顔を背けた。
「種類の違いって、カットしてる時は納得いくまで1ミリ以下の微調整するのに、プライベートでは洋服のほつれが3センチくらい出たままでも全然気にならないのとか?」
「絶妙な例示やめろよな」
顔をしかめて不満を訴えると、新が楽しそうな笑顔になる。
服のほつれ云々は例えの話ではなく、先日実際あった出来事だ。理宇が「あとで切る」と言いながら放置し続けていたシャツのほつれ糸を、見かねた新がハサミで切ってくれた。
「もうこの話終わり。あ、ワイン飲まないとな」
「話そらした」
「ほら、新! コルク抜くやつ出して。肉冷めるだろ」
聞こえていないふりをして新をせっつく。新は「はいはい」と笑いながらキッチンへ向かった。
「使う機会あってよかった」
戻ってきた新の手には、高級感漂う黒い小箱がある。中に収まっていたのはソムリエナイフだ。
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