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「なんかすごい高そうじゃん。会社の納会で当たったんだっけ?」
「うん。有名ブランドのものみたいなんだけど、完全に宝の持ち腐れだったから」
「大企業はビンゴの景品もオシャレだな」
「でも、みんな1等のswitch狙ってたよ」
「そういうの聞くとどこも一緒だなって思えるな」
ちまたで大人気の家庭用ゲーム機がどれだけ入手困難だったのかは、店長が子どものためにあちこち探し回っていたのを間近で見ていたためよく知っている。理宇も何度か抽選販売に申し込んでみたが、ことごとく外れた。
「新もswitch狙ってたのか?」
ワインボトルを新に手渡しながら尋ねる。
「俺は特賞の旅行券」
「おー、いいな」
新は折りたたまれていたナイフを引き出し、先端を覆うラベルを切り取っていく。
その光景をわくわくと見つめていた理宇だったが、はっとあることを思い出した。
(だめだ。旅行の話はまずい)
新の旅行の誘いをやんわり受け流したのは、つい最近のことだ。
「でも俺はやっぱswitchかな。そろそろ普通に買えるようになってんのかな」
理宇は即刻話題の軌道修正にかかる。
近くにいすぎると、また気持ちがあふれて、うっかり取り返しのつかないことを口にしてしまうかもしれない。旅行など楽し過ぎて、余計に歯止めが利かなくなりそうだ。
「今は買えるみたいだよ。同期が最近買ったって言ってた」
律儀に答える新に、理宇は後ろめたさを感じながら「そっか」と笑う。
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