第9話

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「そういえばトマトジュース、せっかく買ったのに試せなかったね」 「あ、ほんとだ。こんなにぐいぐい飲めちゃうとか、思ってなかったしなぁ」  ワインを割る用にと買った、缶入りのトマトジュースの存在をすっかり忘れていた。 「朝ごはんに飲もうか」  新の提案に頷きかけた理宇だったが、ふとあることを思い出した。 「そういや新って、子どもの頃苦手だったよな、トマト」 「……今は平気だよ」  やや気まずそうな表情が可愛くって、もっとそんな顔をさせたくなってしまう。 「でも新はいい子だからさ、苦手でも文句言わずちゃんと残さず食べるんだよな」  食卓にトマトが出てくると、まずはじっとそれを見つめる。そしてその後、覚悟を決めた真剣な顔で口に運ぶ。思い切り眉間にしわを寄せ、涙目で咀嚼する様子が可哀そうで、理宇は何度か新の皿からトマトをさらったことがあった。  新をちらりと見ると、拗ねたみたいな顔をしていて理宇は堪らなくなってしまう。 「あはは、いい子いい子」  新はどうしてこんなに可愛いのか。  そんな気持ちのまま、新の髪を撫でて、掻き回す。髪がくしゃくしゃになっても可愛い。  飽きずに新の髪を乱していた理宇の手が、ぴたりと止まる。新の手が、理宇の手首を掴んでいた。
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