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「そういえばトマトジュース、せっかく買ったのに試せなかったね」
「あ、ほんとだ。こんなにぐいぐい飲めちゃうとか、思ってなかったしなぁ」
ワインを割る用にと買った、缶入りのトマトジュースの存在をすっかり忘れていた。
「朝ごはんに飲もうか」
新の提案に頷きかけた理宇だったが、ふとあることを思い出した。
「そういや新って、子どもの頃苦手だったよな、トマト」
「……今は平気だよ」
やや気まずそうな表情が可愛くって、もっとそんな顔をさせたくなってしまう。
「でも新はいい子だからさ、苦手でも文句言わずちゃんと残さず食べるんだよな」
食卓にトマトが出てくると、まずはじっとそれを見つめる。そしてその後、覚悟を決めた真剣な顔で口に運ぶ。思い切り眉間にしわを寄せ、涙目で咀嚼する様子が可哀そうで、理宇は何度か新の皿からトマトをさらったことがあった。
新をちらりと見ると、拗ねたみたいな顔をしていて理宇は堪らなくなってしまう。
「あはは、いい子いい子」
新はどうしてこんなに可愛いのか。
そんな気持ちのまま、新の髪を撫でて、掻き回す。髪がくしゃくしゃになっても可愛い。
飽きずに新の髪を乱していた理宇の手が、ぴたりと止まる。新の手が、理宇の手首を掴んでいた。
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