第9話

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「俺、全然いい子じゃないよ」  まっすぐに見つめてくる瞳は怒っているみたいで、理宇は硬直した。新が怒ることなどめったにないので、どうしていいかわからなくなる。 「あの……ごめん。調子に乗ってふざけすぎた」  喉に引っかかりながらようやく出てきた言葉に、新の指の力がゆるんだ。それでも指は離れていかなくて、理宇は自ら手を引いてのがれる。  新は無言のままで、責めるみたいに向けられる強い視線が怖いと感じた。 「……なんか、喉渇いたかも。トマトジュース今飲もっかな」  宣言するように言って、ソファから立ち上がる。 「新も飲むだろ、取ってくるな」  逃げるようにキッチンに向かって冷蔵庫を開けた。 (どうしよ、怒らせちゃった、よな)  そんなに大したことはしていないはずなのに、とは思うが、それは理宇の考えに過ぎない。  昔の嫌な記憶をわざわざいじったり、子ども扱いしたり、新にとっては相当不快だったのかもしれない。
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