第9話

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 冷蔵庫の冷気とは無関係に手足が冷たくなる。  今記憶を辿ってもすぐには思い浮かばないくらいには、新は普段から怒らないのだ。 (許してくれなかったら、どうしよう)  新に限ってそんなことはないと思いつつも、経験がないからわからない。  新に嫌われたら、理宇は冗談でなく生きていけない。 (もっかいちゃんと謝ろう)  頬を両手で叩いてからトマトジュースに手を伸ばす。 「……ぅ、おっと」  踵を返すと、一瞬バランス感覚を失って身体が大きく傾ぐ。酔いのせいで、床が何か柔らかいものでできているように感じられた。  キッチンまではやや慎重に歩いたのに、リビングに戻って新の姿が視界に入った瞬間、緊張で早足になる。 「新、あの……」  呼びかけに新が顔を上げた瞬間、理宇の足がもつれてつんのめった。 「……っ」  咄嗟にスチール缶を手放して、ソファの背もたれに手を突いた。だけど勢いを殺せず、新に覆いかぶさるように倒れ込んでしまう。
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