第9話

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「だって俺は理宇の弟なんでしょ? だから俺は、理宇にだけ甘える」   大切な弟。自慢の弟。  理宇は本当にそう思っている。だけど今、新にそんな親愛と信頼を向けられると、苦しくなる。  なぜなら最近はもう、言い聞かせるように、誤魔化すためにその言葉を使ってばかりだ。  本当にそれだけの愛情で済んだなら、どれだけ楽だっただろう。  こんなに張り裂けそうな胸の痛みも、吐きそうなほどの罪悪感も知らずにいられた。  新に言えないことばかり増えて、苦しくて、泣きたくて。 (それでも、俺は……)  慰めるみたいに、新の髪を梳く。その動きを繰り返しながら、努めて冷静な声音で語りかけた。 「恥ずかしいから、外では絶対こんな態度出すなよ」 (俺以外のやつに甘えないで) 「まあ新だったら普通に受け入れられそうではあるけどさ」 (お願いだから、誰も好きにならないで) 「とりあえず、結婚考えるような彼女できるまでは、俺で我慢な」 (好きでごめん。ちゃんと兄ちゃんでいるから、一緒にいさせて)  セリフと本音が頭の中で混ざって、気持ちまでぐちゃぐちゃになって、唐突に泣きたくなった。
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