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「だって俺は理宇の弟なんでしょ? だから俺は、理宇にだけ甘える」
大切な弟。自慢の弟。
理宇は本当にそう思っている。だけど今、新にそんな親愛と信頼を向けられると、苦しくなる。
なぜなら最近はもう、言い聞かせるように、誤魔化すためにその言葉を使ってばかりだ。
本当にそれだけの愛情で済んだなら、どれだけ楽だっただろう。
こんなに張り裂けそうな胸の痛みも、吐きそうなほどの罪悪感も知らずにいられた。
新に言えないことばかり増えて、苦しくて、泣きたくて。
(それでも、俺は……)
慰めるみたいに、新の髪を梳く。その動きを繰り返しながら、努めて冷静な声音で語りかけた。
「恥ずかしいから、外では絶対こんな態度出すなよ」
(俺以外のやつに甘えないで)
「まあ新だったら普通に受け入れられそうではあるけどさ」
(お願いだから、誰も好きにならないで)
「とりあえず、結婚考えるような彼女できるまでは、俺で我慢な」
(好きでごめん。ちゃんと兄ちゃんでいるから、一緒にいさせて)
セリフと本音が頭の中で混ざって、気持ちまでぐちゃぐちゃになって、唐突に泣きたくなった。
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