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自宅に帰る金曜日、理宇の仕事は休みだった。
「それじゃあ、長いことありがとうな。ほんとに助かった」
「何かあったら、またいつでも来て」
「はは、もう部屋水浸しは勘弁してほしいけどな」
こうして別れの挨拶をしてはいるが、これから出ていくのは仕事に出掛ける新の方だ。理宇はこれから、置かせてもらっていたものを箱詰めして、宅配依頼をするという作業が残っているため、もう少し滞在させてもらう。
「仕事、気を付けて行ってこいよ」
「うん、ありがとう」
そう言ったきり、新が黙り込む。靴を履いたのに動く様子もない。
理宇はずっと俯け気味にしていた視線を、少しだけ上げた。
「新、どうした?」
新はただ理宇を見ていた。何かを堪えているような顔で。
「新」
理宇がもう一度呼びかけると、誤魔化すみたいに微笑んで、「ごめん、一瞬ぼうっとしてた」と言った。
「いってきます」
「おう、いってらっしゃい」
笑顔で手を振って新を送り出す。
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