第10話(前半)

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 自宅に帰る金曜日、理宇の仕事は休みだった。 「それじゃあ、長いことありがとうな。ほんとに助かった」 「何かあったら、またいつでも来て」 「はは、もう部屋水浸しは勘弁してほしいけどな」  こうして別れの挨拶をしてはいるが、これから出ていくのは仕事に出掛ける新の方だ。理宇はこれから、置かせてもらっていたものを箱詰めして、宅配依頼をするという作業が残っているため、もう少し滞在させてもらう。 「仕事、気を付けて行ってこいよ」 「うん、ありがとう」  そう言ったきり、新が黙り込む。靴を履いたのに動く様子もない。  理宇はずっと俯け気味にしていた視線を、少しだけ上げた。 「新、どうした?」  新はただ理宇を見ていた。何かを堪えているような顔で。 「新」  理宇がもう一度呼びかけると、誤魔化すみたいに微笑んで、「ごめん、一瞬ぼうっとしてた」と言った。 「いってきます」 「おう、いってらっしゃい」  笑顔で手を振って新を送り出す。
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