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エスパドリーユに無造作に足を突っ込み、端に寄せていたスーツケースを手繰り寄せる。
「カレー、ちゃんとあっためて食えよ」
追いかけてきた新に、人差し指を立てて注意してから背を向ける。
ドアノブに手を掛けて、下げようとした時、唐突に耳のすぐ側で衝撃音が響いた。
「……っ」
予期せぬことに驚いて、身体を竦ませる。
大きな音の正体は、背後から伸びた新の手が扉を叩いたものだと知る。
「理宇、ごめん。待って」
すぐ後ろに新の気配を感じて、振り向けなかった。
心を立て直して、いつもの調子で平静を装って振り向こうとした。……だけど、できなかった。
背中が、すっぽりと何かに覆われる。それが新の胸だと気付いた瞬間、前面に腕が回って抱き締められた。
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