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「新……おれ……」
理宇は震える声で呟くが、混乱からすぐに何を言えばいいのかわからなくなる。
「ごめん、……ちょっと待って、俺……頭が……」
落ち着いてどうにか状況と頭の中を整理しようと思うと、余計に混乱した。
今にも過呼吸を起こしそうな口元を押さえて狼狽える理宇の肩に、落ち着かせようと新の手が触れる。
「……っ」
少しの接触で、理宇は鋭く息を吸い込み、大きく肩を跳ねさせる。理宇の過剰な反応に、新は申し訳なさそうに笑った。
「驚かせて、本当にごめん。急にこんなこと言われて、戸惑うよね」
新はそう言うと、放置されていたスーツケースの持ち手を引いた。
「落ち着いたら、返事を聞かせてほしい。いつまででも待つから」
玄関の扉を開けて、理宇にスーツケースを差し出す。理宇は手渡されるまま震える手でそれを受け取った。
「送っていきたいけど、今日はここで。気を付けて帰って」
新に送り出され、理宇はただ小さく頷く。
スーツケースを手に、頼りない足取りでよろよろとマンションの廊下を進み始めた。
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