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雪哉はトレーに乗せたおしぼりを理宇の前に置いてから、手早く酒を作ってくれる。サーブされたのは、理宇が初めてこの店に来た時に出されたのと同じカシスソーダだった。
きれいな赤紫色のグラスを見つめていると、理宇の目から再びぶわっと涙があふれる。
「俺……もうわけわかんなくなっちゃって、どうしたらいいのか」
「うん」
両方のひじをカウンターにつき、手のひらで目元を覆って呻く理宇の頭を、雪哉がぽんぽんと撫でた。
「新ンちいるの、昨日までで……今日家に帰ったら、一旦時間置いて、どうしようもなくなった気持ちとか、距離感とか、全部元通りになるはずだったのに」
途中で何度も詰まって鼻をすする理宇の話を、雪哉は何も言わず聞いた。
「何が起きたのか、わかんないっていうか……頭真っ白になって、パニくっちゃって……とにかく一人になって1回考えたいって思って……気づいたら、ここに来てた」
「そうなん」
雪哉の短い相槌は、労わるような穏やかな響きだった。
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