第10話(後半)

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 氷だけになったグラスを勢いよくカウンターに載せ、ぷはーっと荒々しく息を吐き出す。 「残念やけど、この店に自分に出す酒は一滴もないわ」  放たれた一言に、理宇は双眸を大きく開いた。 「色々コジらせてしもてるのはようわかってるけど、さすがにそれはアカンやろ?」 「雪哉、くん……」 「悪いけど、帰ってくれへん? 土壇場で尻込みして逃げ出すようなヤツはもう出禁や」  突き放す一言に、理宇はぐっと唇を引き結んだ。 「出禁解いてほしかったら、新くん連れといで。2人で来たら、めっちゃいいお酒下ろしたるわ」  雪哉はそう言うと、グラスを取りシンクで洗い物を始める。理宇の存在などまるでいないみたいに。  理宇は緩慢な動作でスツールから下り、足元に置いていたスーツケースに手を伸ばす。  俯き、少し背を丸めて、重い足取りで入ってきたばかりの扉を目指す。カラカラとキャスターの音を響かせながら、理宇はゼニスブルーを後にした。
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