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氷だけになったグラスを勢いよくカウンターに載せ、ぷはーっと荒々しく息を吐き出す。
「残念やけど、この店に自分に出す酒は一滴もないわ」
放たれた一言に、理宇は双眸を大きく開いた。
「色々コジらせてしもてるのはようわかってるけど、さすがにそれはアカンやろ?」
「雪哉、くん……」
「悪いけど、帰ってくれへん? 土壇場で尻込みして逃げ出すようなヤツはもう出禁や」
突き放す一言に、理宇はぐっと唇を引き結んだ。
「出禁解いてほしかったら、新くん連れといで。2人で来たら、めっちゃいいお酒下ろしたるわ」
雪哉はそう言うと、グラスを取りシンクで洗い物を始める。理宇の存在などまるでいないみたいに。
理宇は緩慢な動作でスツールから下り、足元に置いていたスーツケースに手を伸ばす。
俯き、少し背を丸めて、重い足取りで入ってきたばかりの扉を目指す。カラカラとキャスターの音を響かせながら、理宇はゼニスブルーを後にした。
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