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どれほどの勇気を振り絞って伝えてくれたんだろう。
苦しいのは、つらいのは、自分だけだと思っていた。
「ごめん、……新」
呟きとともに、理宇の瞳から雫が流れた。
すぐに同じ想いを返せなかった自分を、激しく後悔する。
テーパードパンツのポケットからスマホを取り出した。
今すぐにでも、新に自分の気持ちを伝える。
そう思って液晶をタップした理宇の手は、通話履歴の画面を開いたところで止まった。
『理宇は、誰からも好かれるし、いろんな出会いもあるだろうし』
新の言葉が、頭の中で反響する。
『俺のこと弟みたいにしか思ってないのはわかってる。困らせてごめん』
きっと新は、自分のことを勘違いしている。
だけどそれは、理宇がそう思われたくて自分を偽り続けた結果だ。
新の前では、ことあるごとに兄貴ぶって、経験もないのに訳知り顔で余裕ぶってきた。
一番になれないのなら、なんでも受け止めてやれるような、自分だけにはなんでも話せるような、そんな存在になりたかったからだ。
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