第11話(前半)

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第11話(前半)

 カットしたばかりの髪をブローして、丁寧にアイロンで伸ばしたあと、左右対称になっているかなど細部まで確認をする。少し気になった前髪を数本カットしてから、理宇は二面折り畳み式のバックミラーを手に取った。セットミラーと合わせ鏡をして、お客に背面の仕上がりを確認してもらう。 「インナーカラーもイイ感じに入ってますね。どうでしょう?」 「もうばっちりです。やっぱ村瀬さんのオススメにしてよかったぁ。いつもありがとうございます」 「こちらこそです」  カットクロスを外して、カウンターへと促す。常連客と他愛ない会話をしながらお会計をして、店の扉の前でお見送りをする。 「気を付けて帰ってくださいね。またお待ちしてます」  お客がビルの階段を下り切るまで笑顔で待機して、理宇はすぐに店に戻った。後片づけに掛かろうとする顔は、さっきまでとは別人だ。顔の筋肉のすべてが死んだように表情を失っている。  理宇がモップを手に取ろうとすると、背後から大きな手が伸びてそれを奪った。
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