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「もう理宇さん、俺の仕事取ったらダメですってば」
今年度入ったばかりの新人アシスタント竹内が、理宇に向けて怒った顔を作る。
「理宇ちゃん、次のお客さんの予約までちょっと空くでしょ。休憩しておいで」
担当客のパーマの放置時間中である店長が、すかさず寄ってきて声を掛ける。
「大丈夫です。昼メシはさっき食べたので、カウンターいますね」
サロンでは施術以外にも細々とした事務作業があるし、電話も頻繁に鳴る。
「いいから、いいから。ちょっとぼーっとしといで」
「でも……」
「理宇さん、電話も俺の仕事!」
竹内が右手を勢いよくあげて、大げさに主張する。
それでも理宇が躊躇っていると、店長が「ほら、行った行った」と肩を押し出した。
やや強引に追い立てられたスタッフルームでは、同僚の彩が遅めの昼食を摂っているところだった。「お疲れ様」の理宇の言葉に、モグモグとサラダを頬張りながら軽く片手をあげる。理宇は対面側に座って、ジョガーパンツのポケットからスマホを取り出す。
ここ数日は、スマホの画面をタップするのにいつも少し緊張する。いくつかのアプリの通知だけが表示されているのを確認して、ほっとしたような、がっかりしたような、矛盾した気分になる。
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