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無意識の溜め息を吐いた直後、向かいの席からすっと何かが押し出されるのが視界の端に入って顔を上げる。理宇の目の前に置かれたのは、焦がしキャラメルが決め手!の文字が踊るコンビニのプリンだった。
「お腹いっぱいになっちゃったから、あげる」
「彩ちゃん」
言葉通りで、特に他意はないのだとアピールするように、彩は興味なさそうにスマホをいじっている。
食欲はなかったが同僚の気遣いを無下にはできず、理宇は礼を言って添えられたプラスチックのスプーンを開封する。
一昨日、理宇が目を腫らして出勤してから、同僚たちがいつにもまして優しい。
感動系の映画が刺さり過ぎて一晩中泣いてしまったという理宇の言い分は、きっと誰も信じていない。それでもみんな詮索せず、何かと気遣ってくれる。こういう優しさに接すると、理宇はありがたいのと同時に申し訳ない気持ちになった。
どうにかいつも通りに明るく笑っていようと意識するけど、ふとした瞬間に先週の出来事を思い出してしまい、ぐるぐると終わりのない問答ループに入ってしまう。
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