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早く新に会わないと、とは毎秒思っている。
けれど、会って、好きだと伝えたら、新との関係が変わってしまうことを想像するとひるんでしまう。
意を決して連絡をしようとスマホを手に取ってみても、怖くなって躊躇っているうちに、「こんな俺じゃ新を幸せにできるわけないじゃん」と思い至って脱力する。そんなことばかり繰り返していた。
「理宇ちゃん、あのさ」
もそもそとプリンを食べていると、店長がスタッフルームを覗き込むように現れる。
「今月の新くんの予約入ってないけど、入れ忘れてない? 閉店後にするの?」
尋ねられて、理宇はスプーンを加えたまま硬直した。突然出てきた名前に、思考が一瞬止まった。
「理宇ちゃん?」
「あ……っと、すみません。忘れて、ました」
理宇がこの店に勤めだしてから、新は月に一度は来店している。大抵は店が暇な木曜日の夜に来て、そのあと一緒に食事をして帰る。二人だけで飲むこともあれば、そこに店長をはじめとする同僚たちが混ざることもあった。
答えたまま強張った表情で黙り込む理宇に、店長と彩が顔を見合わせる。
どうしよう、変に思われる。
理宇は慌てて口を開く。
「か、確認しておきます」
焦ったせいで、どもったうえに上擦った。店長は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの調子で「ほいほーい、お願いね」と軽く答えてスタッフルームを出ていった。
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