第11話(前半)

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 設立から100年以上。世界中に名の知られた、国内屈指のスポーツ用品メーカー【MATHUKI】本社ビル。  さっき見たネットの情報には、31階建てだと記載されていた超高層ビル内では、800人ほどの従業員が働いているらしい。その中には、新もいるはずだった。  ガラス張りの1階は、誰でも入場できるギャラリーになっていた。マツキ製のシューズやウエア、ユニホームが展示されていたり、契約選手を紹介するパネルなどが飾られたりしている。  理宇は展示品を見るともなしにフロアを一巡してから、休憩スペースを兼ねたエントランスのソファに腰を下ろした。  少し向こうに見える受付スタッフは、スポーツメーカーらしくポロシャツに上品なスカーフがあしらわれた、清涼感のある制服を着ている。髪は綺麗にまとめられ、派手過ぎない華やかなメイクをしていて、まさに大手企業の受付という雰囲気だ。  新は営業だから、もしかしたら外回りに出ていて、ここを通るかもしれない。  しかし理宇は、そんな偶然が起こる確率が極めて低いことはわかっていたし、それを期待してここに座っているわけでもなかった。
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