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ただ新のことばかり考えていたら、なんとなくこの場所に足を向けていた。
近代的で広々とした空間。遠くに設置された大きなモニターには、テレビで見かけたことのあるCMが流れている。
上階のオフィスフロアへ進むためのセキュリティゲートでは、さっきから何人かスーツの男女が行きかって、そのたびに少し緊張した。
高い天井を見上げながら、すごいなぁ、と理宇はぼんやり思った。
この場所に座る自分は、完全にお客さんであるけれど、新は毎日、こんな大きなビルで何百人の同僚と働いている。
美容師という自分の職業に、引け目を感じたことはもちろんない。誇りと信念を持って日々仕事に取り組んでいる。
それなのに、目に見える「大きさ」の違いを前にして、なんだか力が抜けるような感覚に襲われた。
(ああ、そっか。俺は理由が欲しかったんだ)
不意に自分の行動の真意に気付いて、思わず苦笑が漏れた。
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