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第11話(中)
数日ぶりの新のマンション前に立って、深呼吸を一つする。
スマホで時刻を確認すると、19時半を少し回ったところだった。
勢いのまま履歴から新の番号をタップして、端末を耳に当てる。
呼び出し音が聞こえるたびに、心拍数が増えていった。7回鳴ってもつながらなくて、まだ帰っていない可能性が頭をよぎる。
もしもそうだとしても、理宇に帰るつもりはなかった。
何時間だって待つ所存だ。
決意しながら一旦電話を切ろうとした時、不意に電子音が止まった。
ためらうような息遣いが耳に届いて、心臓が大きく鳴る。
『理宇?』
自信なさげに確かめる声音に、「うん」と返した。
「メッセージ、見た」
今度は新が、『うん』と返す。
『ごめん』
間を置かず呟かれた謝罪に、胸をぐっと押されるみたいな息苦しさを覚える。
新が言葉を続けようとする気配を遮って、理宇が口を開いた。
「今、家にいる?」
『うん、家』
「俺さ、今新のマンションの前にいるんだ。会いに行っていい?」
すぐに返答はなくて、呼吸音だけが聞こえる。
『うん、鍵開ける』
ようやく聞こえた声に、理宇はすぐさまエントランスへ向かった。
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