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◇ ◇ ◇
解錠されたオートロックの扉をくぐって、エレベーターで3階に上がる。突き当りの部屋の前まで行きインターホンを押すと、扉はすぐに開かれた。
新は会社から帰ったばかりなのか、まだスーツ姿だった。
たった数日顔を見ていないだけなのに、少しやつれた印象がする。ちゃんと眠れていないのか、目の下にうっすらクマがあった。
新を傷付けて苦しませた事実を目の当たりにして、口の中に苦いものが広がった。それが顔に出ていたからか、新が悲しそうに顔をしかめる。
「とりあえず上がって」
サンダルも脱がずに玄関に立ち尽くしていた理宇に、新が声を掛ける。先を歩く背中がいつもよりずっと頼りなく見えて、理宇はリビングに移動する途中で足を止めて声を掛けた。
「ほんとにごめん、遅くなって」
新が立ち止まり、ゆっくりと振り向く。
「理宇が謝ることじゃない。俺が勝手に……」
「違う……ほんとに、俺が悪くて」
言わなければと思うのに、言葉がなかなか形にならない。
心臓が鳴り過ぎて息がしづらいし、手も足も震えている。
(すごいな、新は。こんなのに耐えて、それでも好きだって伝えてくれたんだから)
理宇の気持ちを知らない分、きっと理宇の何十倍、何百倍も怖かったはずだ。
そんな真摯な新の気持ちに、今度こそちゃんと応えたかった。
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