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「違う、そっちじゃない」
新の勢いにややびっくりして、今度は理宇が双眸を大きく開く。
「理宇が、俺のことを好きとか夢みたいで信じられないから……今の出来事全部、俺の妄想じゃないかって、そういう意味」
新の瞳を覆う水分が、いつもより多いように見える。
どこか頼りない感じでじっと見つめられると、高鳴りとともに胸の奥がきゅっと絞られた。
二人の間の空気が、じわっと熱を持った錯覚がする。顔が焼けて、初めて感じる緊張感に理宇は耐えきれなくなった。
「あー……えっと、その、引いてないんなら、良かった、うん」
何かに急かされるように、言葉を重ねる。
「兄貴風っていうの? 知ったかしてカッコつけてたのに、実際はコレだからさ。バレたら幻滅されると思ってたし」
あはは、と理宇が照れ笑いをすると、新は切なげに顔をしかめた。
「幻滅なんて、するわけない」
肩に触れていた新の手がすべって、理宇の頬にそっと触れる。
「幻滅どころか……」
それ以上新は何も言わない。
代わりに熱のこもった瞳が雄弁に語る。
(ああ、またあの目だ)
落ち着きかけていた理宇の鼓動が、再び間隔を狭めていく。
自分だけが映った新の瞳を見ていたら、理宇の目から唐突に涙がこぼれた。
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