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「理宇」
新はぎょっとして、ソファを下りて理宇の前にかがむ。
「何か傷付けた? 俺、何か理宇の嫌なことを……」
ポロポロと泣き出した理宇の顔を下から覗き込んでくる新に、理宇は慌てて首を左右に振った。
「ごめ……違う。新が……ほんとに俺のこと好きなんだって実感が急に湧いて……」
抑えられない感情が次から次へとしずくになるから、何度指でこすってもキリがない。
これまでの苦しさも悲しみも、帳消しどころか感謝したい気分だった。
「新、大好き」
今自分の中で一番大きな気持ちを、涙声でぽつっと呟く。
「へへ、もう隠さなくていいんだな」
理宇が泣き笑いで目を細める。立ち上がった新は、理宇の頭を自分の胸に閉じ込めるみたいに抱きしめた。
「大事にする」
そう誓いながら、抱き締める腕に力を込める。
新の胸に抱かれると、また緊張して身体が震え出したけど、少しも嫌な気持ちはなかった。
「もう十分大事にしてくれてんじゃん」
ずびっと鼻をすすってから笑う理宇に、新が吐息で笑う。
「今までよりも、もっとずっとだよ」
言いながら新は、理宇の髪を優しく何度も梳く。
「……じゃあ俺も、新のこともっともっと大事にする」
まだぎこちない手つきで、理宇は新の背を抱いたのだった。
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