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「本当に散髪屋さんみたいだね」
新は少しはしゃいで、足をバタバタと動かした。
「散髪屋じゃなくて、美容師だ」
「びようし」
初めて聞いた言葉のようで、新はぎこちなくオウム返しをする。
「美容師はただ切るだけじゃなくて、髪をくるくるにしたり、金ピカに染めたりもするんだぞ」
理宇の説明に、新は「すごい」と素直な感嘆の声をあげた。
とは言え理宇自身、近所の理髪店へしか行ったことがない。
美容師という存在を知ったのは、先日見たテレビだ。画面に映るヘアサロンは、理宇の知る「髪を切るところ」とは随分違っていた。
コンクリート剥き出しの室内はとても広く、大勢の人がいて、英語の音楽が流れていた。美容師の手によって客が別人のように変わっていく姿は、魔法みたいだと思った。
「おれは大人になったら美容師になるから、新はアイドルになれ」
「アイドル?」
突拍子のない提案に、きょとんとした顔が振り向く。
「新は将来すごいイケメンになるってお母さんが言ってたから、だいじょうぶだ」
今は天使みたいに可愛いけど、ぜーったいイケメンになるわよ、新くんは。
どうかなぁ。まあパパが身長高いから、背は伸びると思うけど。
運動神経もいいもんね。運動会のかけっこ、すごい速くてびっくりしちゃったもん。
母親たちのやり取りを思い出して、うんうん、と確信の頷きを繰り返す。
「新がアイドルになったら、俺が専属美容師になって、すごいかっこよくしてやるからな」
新の返事も聞かずに自信満々にその両肩を叩く。
新はくりくりとした目を細めて、「わかった」と従順な返事をした。
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