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次に瞼を開いたのは、しばらくして背後から大きな溜息が聞こえた時だった。
「仕事行きたくない」
「新でもそんなこと思ったりするんだ」
返事をする代わりに、新は理宇にしがみついて襟足辺りに額をぐりぐりと押し付けてくる。
ぐずっているみたいな仕草も、新がすると可愛くて堪らない。
「俺、そもそもそんなに真面目な方じゃないと思う」
「どこが。新が真面目じゃなかったら、俺とかどうなんの」
背後を向いて確認する理宇に、新は肩を引いてそのまま向き合う体勢にした。
「今日はやる気が出ないなとか、頑張れないなって思う日とか結構あるよ」
「そうなの?」
「うん。でもそういう時は、いつも理宇のこと考える」
「……え」
「理宇も頑張ってるから頑張ろうとか、理宇に少しでも釣り合う男にならないとって。そうしたらいつも気合いが入る」
眩しげに自分を見る新に、理宇は思い切り照れてしまう。
「だから、俺が真面目でいられてるのは理宇のおかげ」
何か言葉を返そうとして、だけど何も言葉が出てこず、鯉のように口をパクパクさせるだけに終わる。新はそんな理宇に、「照れてる」と指摘して笑った。
面映ゆくて、嬉しい。
新にそんな風に思われていたことが誇らしかった。
「そろそろ起きないとヤバいかな」
ヘッドボードの棚に置いてあるシンプルなデジタル時計を、顔を反らせて確認する。
「うん。でももうちょっとだけこうしてたい」
甘える瞳でそんなことを言われてしまえば、理宇はもうメロメロだ。
自ら新に身を寄せて、その胸に収まった。
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