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「あ、時間、ヤバいよな」
それでも視界に入った壁掛け時計で我に返った。
「ほんとだ」
振り返って時刻を確認した新は、ビジネスバッグのファスナーを閉めて玄関に急ぐ。
「気を付けて行ってこいよ」
あとを追って玄関に向かった理宇が、新に声を掛ける。
革靴を履いて振り返った新は、傍まで寄ってきた理宇の手を掴んだ。
「理宇、ちょっと」
「え……っ」
手を引かれ、やや前のめりになった理宇へと新が顔を寄せてきて、一瞬触れるだけのキスをした。
突然のことに口元を押さえて呆然としていると、新は理宇の髪を撫でて満足そうに微笑む。
「理宇も気を付けていってきてね。いってきます」
新の背中に、魂の抜けた「いってらっしゃい」をどうにか返した。
玄関扉が閉まり、一人きりになった玄関に立ち尽くす。
「え、なにこれ、現実?」
思わず独り言が漏れる。
朝からの幸福ラッシュに混乱した理宇は、しばらくの間そこから動けなかった。
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