第12話

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  ◇   ◇   ◇  結局、幸せパニックに陥っているうちに自宅に戻る時間がなくなり、新の服を拝借して出勤した。  ベージュのチノパンツは、ベルトで絞り無理やりウエストを合わせて、余った裾はロールアップに。モノトーンシャツはインナーに白いTシャツを合わせ、オーバーサイズ風に羽織った。 「あれ、理宇さん。なんか今日いつもと雰囲気違うくないですか?」  出勤するなり、カウンターを清掃していた竹内に指摘される。 「え? あー、うん……まあ」  動揺を隠しながら曖昧に返事をして、そそくさと通り過ぎた。 店長や他の同僚と挨拶を交わしていても、服を見られている気がして落ち着かない。  そして、施術中に鏡を見るたび、 (うっわ、俺新の服着てんじゃん!)  などと興奮と猛烈な照れに襲われた。  挙句、常連客の恋愛話に動揺して、髪を留めるダッカールを何度も取り落とした。サポートに入っていた竹内に「すみません、今日理宇さん朝からなんか調子悪いんスよ」とフォローを入れられる始末だ。  新の来店時刻が近づくにつれ挙動不審さは増して、時計ばかり気にしていた。
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