第12話

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「ちょ、理宇さん? なにお見合いしてんすか?」  竹内の呆れたような声でわれに返る。 「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。じゃあ先にシャンプーな。シャンプー台へどうぞー」  いつもより大きな声で言って、先に歩き出す。  背後で竹内が、「今日理宇さん変なんスよね」と新に話しているのが聞こえた。  アシスタントが出勤している時は、基本的にシャンプーを任せることになってはいるが、新に関しては理宇がすべての工程を行う。それは今に始まったことではないし、竹内も心得ているという風に他の作業をしている。しかし、『他の人間に新を触らせたくない』という独占欲が無意識に滲み出ている気がして、今になって猛烈に恥ずかしい。  シャンプーをしている時も、カットをしている時も。  どんな顔をすればいいのかわからなくて、変な汗が出ていた。  10年以上の時を経て解禁された新への好きを、扱い切れていないのが自分でもわかる。  それ以上に、新が自分のことを好きだという現実に、まだ夢見心地だった。  思考がグルグル、フワフワして、だけど仕上がりに影響するのは絶対に許せないから、いつもの何倍も神経を使う。
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