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カットを終えてクロスを外していると、店長が近づいてくる。
「理宇ちゃん、どうしたの?」
「何がですか?」
「だっていつもカット終わったら、「やっぱ新、超男前! さすが俺!」とかってテンション高いのに、今日めちゃくちゃ静かじゃない?」
指摘されて、内心ギクリとしながらも平静を装う。
「まあ、今日は整えるだけでスタイル変えてないので」
理宇の返答に、店長は不思議そうな顔をしている。
それもそのはずだった。
これまで微調整だろうがメンテナンスカットだろうが新を絶賛し、それを誤魔化すために自画自賛していた理宇だ。
「大体、新が……か、かっこいいのは今さらというか、当たり前なので。もうわざわざ言わなくてもいいかなって」
さらっと言おうとして、肝心なところを噛むという痛恨のミスを犯してしまう。
新に気持ちを知られていると思うと、今までのように軽々しく「かっこいい」と口にしづらい。
「まあ、それもそうだよねー」
「そっスよね! 365日24時間顔面天才っす」
店長が納得して、竹内がそれを受ける流れにほっとする。
そんな矢先、鏡越しに新と目が合った。
油断したところに微笑まれて、理宇は流れ弾に被弾する。表情筋が暴走して、ポーカーフェイスを保てず、さりげなくバックヤードに逃げ込んだ。
(あー、もうかっこいい! 好き!)
カラー剤の棚の前で両手で顔を覆い、心の中で絶叫したのだった。
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